前回の記事では、意思能力と行為能力についてお話しをしました。
「権利能力を持つ人が、意思を持って行為を行わないと、その行為に能力が備わらない」って話でしたね。
今回はこの意思の部分に「意思の不存在」があった場合はどうなるか、というテーマです。
まず、前提条件として登場人物の紹介をしておきます。
銀の匙と同様に、まずは原契約者であるAさんとBさんがいます。
今回はAさんが不動産をBさんに売却したという設定で、第三者のCさんがその後にBさんから不動産を購入したとします。
ちなみにDさんはAさんにチョッカイを出す人です。
意思の不存在
それでは早速ですが、意思の不存在には決まった5つのパターンがあります(これしかない)。
- 心裡留保 :Aの意志が真意でなかった(Aが冗談を言ってBが信じて)契約
- (通謀)虚偽表示 :Aが売る意思が無いのにBと通謀して虚偽表示して契約
- 錯誤 :Aが要素(重要な部分)の錯誤(うっかりミス=無重過失)して契約
- 詐欺 :AがDにダマされて契約してしまった
- 強迫 :AがDに脅されて契約しちゃった
いずれのパターンもAさんに意思の不存在があったという前提です。
このまま参考書のように細かく説明しはじめると何が何だか分からなくなってしまう人が続出するので、一つの表にまとめますね。
(表を覚えましょうというわけではありません。理屈で考えれば当たり前だねということをまとめて表で見ることで理解が深まりますし、ビジュアル的に分かり易いと思います。)
表にしてみただけでも、心裡留保と虚偽表示の二つが仲間で、錯誤と詐欺と強迫の三つが仲間なのがなんとなく分かりますよね。
じっくり説明していきます。
- 心理留保:
Aがよく冗談を言う人物だとBが知っていた(=悪意)なら無効ですが、Bが過失無く信じたら契約が有効に成立します。
なので、たとえ冗談であっても不動産をあげるなんて言えば契約が有効に成立してしまう可能性が高いということです。 - (通謀)虚偽表示:
虚偽表示なので、そもそも契約として無効になります。
これもテーマは「意思の不存在」なので、Aに意思があったかどうかというのがポイントになりますが、虚偽の表示ということは架空の契約ですからそもそもAに意思が無いですよね。だから無効という扱いになります。 - 錯誤:
既に新民法に移行しているので書くか迷いましたが、書いて説明した方が記憶に残ると思ったのであえて書きました。旧民法では錯誤は無効でしたが、新民法では錯誤の効果は取消しになりました。
Aが重過失無くうっかり信じてしまったということなら、そこにはAの意思があるので契約は有効に成立したと考えるのが普通ですよね。また、無効の効力は行使権者が誰でもよく期限も無かったため、表意者(意思表示した人)が行使できる取消権の方が理に適っていたからという理由もあります。 - 詐欺:
詐欺に遭ってしまったわけですからAは取消ができます。Bが悪意(AがDに騙されていることを知っていた)ならばそもそも契約自体が無効になりますが、BもAが詐欺に遭っていたことを知らなかったならば効果は取消になります。なぜなら詐欺に気付くまではA-B間の契約は意思を持って有効に成立したと言えますからね。 - 強迫:
強迫も判断は詐欺と全く一緒です。
第三者対抗
さて、更に第三者のCがBから不動産を購入していたとします。
この時、Aが無効や取消しを主張した場合にAが優先されるのか、或いはCが優先されるのか、この判断が苦手な人も多いはずです。
でも実はこの判断は非常に簡単です。
Cに対する対抗要件はAに帰責事由があるかないかが判断のポイントになります。
帰責事由というのはAに責任があるかどうかです。
心裡留保も虚偽表示も100% Aが悪いですよね。なので、Cがそのことを知らなければCが取得できます。
一方、錯誤、詐欺、強迫の場合はAは被害者なので救済してあげないとかわいそうですよね。
なので、Cは善意且つ無過失である必要があります。
↑それじゃ大半はCが有利じゃんって? そうです。Aは確かにかわいそうですが、騙されるAも悪いのです。Cには何の責任もありませんからCが優先されるべきですよね。
例題
試しに何問か例題を解いてみましょう。
- Aの売渡し申込みの意志は真意ではなく、BもAの意志が真意ではないことを知っていた場合、AとBとの意思は合致しているので、売買契約は有効である。
- AB間の売買契約が、Bの意思表示の要素に錯誤があって締結されたものである場合、Bが所有権移転登記を備えていても、AはBの錯誤を理由にAB間の売買契約を取り消すことが出来る。
- Aが、Dの詐欺によってBとの間で売買契約を締結した場合、Dの詐欺をBが知っているか否かにかかわらず、Aは売買契約を取り消すことはできない。
1.Aに意思が無く、それをBも知っていたわけですから、無効ですね。答えは×です。
2.この問題では、錯誤したのはBです。なのでAがBの錯誤を理由に取消すことは出来ません。答えは×です。
3.Bが知っていたならBは悪意というか完全に悪者ですよね。なので、そういう場合はそもそも無効です。答えは×ですね。
せっかくなので、第三者の範囲についても触れておきます。
- 民法の規定では相手方と通じてした虚偽の意思表示の無効は「善意の第三者に対抗することができない」と定められているが、Aが所有する甲土地につき、AとBが通謀の上で売買契約を仮装し、AからBに所有権移転登記がなされた場合に、B名義の甲土地を差し押さえたBの債権者Cは、「第三者」に該当する。
- 上記に関して、Bが甲土地の所有権を有しているものと信じてBに対して金銭を貸し付けたDは、「第三者」に該当する。
- AとBとの間の契約が仮装のものであった場合、善意のCが、Bとの間で、Bが甲土地上に建てた乙建物の賃貸借契約を締結した場合、AはAB間の売買契約の無効をCに主張することができない。
これも解き方というか考え方が分かってないとチンプンカンプンになっちゃいますよね。
第三者の判定の仕方は非常に簡単です。
A-B間の契約は甲土地の売買契約です。つまり甲土地に関係する人が関係者=第三者になります。
なので答えは順に○、×、×です。要するに何のテーマについての第三者なのかってことだけです。
簡単過ぎ?w
次回は、取り消しと解除の違い、そして第三者対抗(対抗要件の具備)、時間軸についてもうすこし掘り下げてお話ししようと思います。
だいたい民法を落とす人は意思の不存在と第三者対抗、時間軸の3つの複合問題で落とされちゃうんだと思います。
覚えようとすると難しくなっちゃうので、考え方を大事にして勉強してみましょう!
コメント
強迫に第三者保護規定はないよ
あさん、コメントありがとうございます。
確かに。強迫の場合は第三者が善意無過失でも表意者が優先されますね。
(∵強迫をされた表意者の方が善意無過失の第三者よりも助けられるべきだから。)
ご指摘頂きありがとうございましたm(_ _)m